第80回『つぐない』("Atonement", 2007)
ストーリー:1935年、イングランド。上流階級の娘ブライオニーは、使用人の息子ロビーに淡い恋心を抱いていた。しかしある日、美しい姉セシーリアとロビーが抱き合っているところを目撃したブライオニーは「いとこを襲った犯人はロビーだ」と虚偽の証言をする。逮捕され、やがて前線に送られたロビーとブライオニーは離ればなれに。成長して看護師となったブライオニーは罪の意識にさいなまれる―
イギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞を受賞したIan McEwanの長編小説の映画化。キーラ・ナイトレイが美しい姉セシーリアを好演しています。英国アカデミー賞作品賞受賞。米国アカデミー賞でも作品賞ほか7部門でノミネートされています。
まず、なぜ日本ではこの映画の上映館がこんなにも少ないのか、非常に不満です。確かに地味な作品ではありますが、このような素晴らしい作品を全国でロードショー公開しないのは、とても残念。文学作品でも『コールドマウンテン』(ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、レネー・ゼルウィガー、ナタリー・ポートマンら出演)のようにビッグネームが多数出ないと日本人は見ないのでしょうか?
子供がふとしたことからついてしまう、軽い嘘。しかし、それは結果として大きな悲劇を生むことになります。自分がしてしまったことへの後悔、そして贖罪の気持ちと葛藤。辛い状況下においても愛を貫こうとするふたり。戦争の狂気と生命の尊さ。派手な戦闘シーンもロマンティックなラブシーンもありませんが、音響効果(タイプライターや蜂の飛ぶ音など)を巧みに使い、表情のアップなど効果的なカメラワークで引き込まれます。
『コールドマウンテン』との違いは、アメリカとイギリスの文学の違いにそのまま出ているような気がします。すべてとは言いませんが、映画にしてもアメリカは常にポジティブにとらえ、ハッピーエンドに結びつけようとする・・・しかし、イギリスの場合はシェイクスピアの時代から悲劇を悲劇として真正面からとらえ、それを否定することなく「美」として表現する・・・イギリスの喜劇俳優チャップリンも「美は悲しみの中にある」と言ったくらいです。
こういった深い文芸作品は、ぜひ見るべきだと思います。
評価(5つが最高):★★★★
Atonement
Ian McEwan